前回は、アトラクト採用について書きました。
今回は、内定辞退の理由でよくある「今の会社に残ることにしました」を取り上げます。
他社に決まったのなら、条件面で比較劣位があったのかもしれません。
しかし、今の会社に残る場合は、そうとは言い切れません。
なぜ、一度は転職しようと考えた人が、「今の会社に残る」の判断をするのでしょうか。
「今の会社に残る」のは、オファーの魅力が足りなかったからとは限らない
辞退の連絡で、こんな言葉を聞いたことはありませんか。
「申し訳ありません。よく考えた結果、今の会社に残ることにしました」
内定者に聞くと、こんな本音があります。
「御社に不満はありませんでした。でも、今の会社を辞める場面を想像したら、決められませんでした」
「条件は御社の方が良かったです。でも、今の職場の皆さんの顔を思い出したら、やっぱり残ろうかなと」
この場合、年収や福利厚生を見直しても、辞退は減りません。
なぜなら、内定先の評価が低かったわけではないからです。
内定者が、今の会社を離れる決心がつかなかったのです。
人は、得るものより、失うものを大きく感じる
行動経済学に「損失回避」という考え方があります。
同じ大きさの得と損なら、損の方を大きく感じる、というものです。
「損は得の2倍ほどに感じる」と説明されることもあります。
もう一つ、「現状維持バイアス」があります。
大きな問題がなければ、今の状態を変えたくない、という気持ちのことです。
転職の内定をもらった人は、頭の中でこう比べています。
得るもの(内定先) | 失うもの(今の会社) | |
|---|---|---|
仕事 | 新しい仕事 新しい経験 | 慣れた仕事 積み上げた実績 |
人 | 新しい上司、同僚 | 信頼している上司、同僚 |
条件 | 年収や役職が上がる | 勤続年数の評価 休みの取りやすさ |
確かさ | 入ってみないと分からない | 働いているのでよく分かる |
得るものは、まだ経験していないので、想像するしかありません。
失うものは、毎日見ているので、具体的に思い浮かびます。
だから、内定先が良い会社でも、今の会社の方が印象に残ってしまいます。
見えていないことを、見える形にして渡すことができるか?
ここで、アトラクト採用の考え方が役に立ちます。
今の会社を選びやすいのは、持っている情報の量が違うからです。
それなら、内定先の情報を正しく伝えてあげればいいのです。
- 入社後の最初の1か月を見せる。誰が迎えて、最初の週に何をして、誰に質問すればよいのか。
→ここが分かると、「得るもの」を具体的に考えられます。
- 一緒に働く人を見せる。配属先の上司やチームの人は、今の職場の人と比べる相手です。
→顔や言葉が分かるだけで、入社後のイメージが変わります。
- 「今の会社を辞めるのは、簡単な判断ではないと思います」と伝えて相談に乗る。
→内定者は「自分の状況を分かってくれている」と感じます。
この3つを文書にして渡せるのが、オファーレターです。
採用したい理由、任せたい仕事、最初の1か月、一緒に働く人、支える体制を書いておけば、内定者は一人で考える時間にも読み返せます。
「今の会社に残る」という辞退は、魅力が足りなかったという意味とは限りません。
人は、得るものより失うものを大きく感じます。そして、見えている今の方を選びやすいのです。
内定者の性格や、気持ちの弱さの問題ではありません。
だから、条件を上げるだけでなく、見えていないことを見える形にして渡します。
内定後も、候補者が決めるのを支え続けるアトラクト採用が必要なのは、このためです。
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